_Ro novelize
taleshift_6
クルセイダーになったことに、とりたてて意味は無かった
強いて言うなら、
森に迷い込んだPTを町に誘う道中、食事を共にする機会もあって
その時に勧められたのが、切っ掛けだとも言えるだろう
曰く、「それだけの腕がありながら勿体無い」
曰く、「君ならすぐにでも転職できる」
曰く、「試しに、試験だけでも受けてみてはどうだい?」
ロアンは森に居られさえすれば、それで良かったし
身を護る以外に、特に力を必要とする理由も無かった
たまに賊を相手にしたりもするが、
なにも正面から戦わずとも、"やりよう"はいくらでもあるのだ
森を熟知しているということは、それだけで強力な武器にもなる
そうした彼の在り様は、剣士と言うよりもハンターのそれに近かった
敢えて既存の職業に囚われない括りを許されたなら、
「ドルイド」と呼んでも良い
なにせ、ファイアブランドの力を借りてとは言え、
初歩的な魔法や、常人から見れば魔法としか思えない手段ですら
いくつか行使できるのだから
ただ彼らが主張するには、
人間相手の無用な争いを避けるためには、"箔"も重要なのだとか
たしかに今のロアンは(内情はどうあれ)少し変わった剣士にしか見えない
どうも世話好きらしい彼らは、
本人そっちのけであれやこれやと盛り上がり、
目的地のフェイヨンが、いつの間にかアルベルタに成り代わり
気乗りしないロアンを半ば引き摺るようにして、プロンテラ城に放り込んだ
この時点で、クルセイダー転職は決定されたといって言い
彼らの中にはクルセイダーも居て、
彼の推薦で実技を除く、ほとんどの試験が免除された
手を抜くことを考える暇も無かった
気がつけば、不死者の群れの真っ只中で
生きるために必死になって脱出すれば、既に全てが終わっていた
まるで嵐のようだった
こんなのは後にも先にもコレだけだ... と、当時の担当官は語る
まぁ良いじゃないか、と肩を叩いて豪快に笑う彼らに対して、
少しだけ殺意を覚えたのは、彼だけの秘密
以後現在に至るまで、なんだかんだで彼らとの関係は続いている
騒がしい彼らは、会う度に様々な騒動を呼び込んでくるが、
ともすれば森に閉じこもりがちなロアンにとって、
彼らは俗世との貴重な接点と言えるだろう
言ってみれば、なし崩し的に転職したクルセイダーだが、
とりあえず利点も無くはない
特にヒールは素晴らしい
薬草の知識も豊富なロアンだが、環境に依存せず、
しかも一瞬で傷が癒える"神の奇蹟"は、控え目に言っても便利なものだ
ここでクルセイダーとは
主神 : オーディンに仕え、聖戦に備える「剣を取った聖職者」を指す
だが、一般に認知されているほど信仰は絶対的なものでは無いらしい
聖戦に備える神の僕とは言え、
現状で王国の一機関でもある以上、ある程度の柔軟さは求められる
つまり、神の奇蹟を行使できずとも身の置きようはいくらでもあるということ
聖騎士団の席次には能力が重視されているが、
形として表しにくい意欲や信仰などより、派閥や慣習が多くを占めている
神の代行組織としてはあるまじき事だが、仕方のない現実でもあるだろう
ただし、例外もある
稀に信仰とは関わらず、奇蹟を行使できる者たちが存在する
神を信じるどころか神すら知らず、平気で唾すら吐きかねない者たち
一般の聖職者とは明らかに違い、しかし"何故か"奇蹟を行使できる者
王国の神学者たちは、彼らのことを
その生き方・在り様・存在そのものが神に愛されている ...と定義する
彼らは一様に強い信念を持ち、常人とは違う"何か"に強く執着している
彼らは教会と聖騎士団によって、緩やかに隔離・管理される
その特異性もさることながら、
何がしかの面において極めて優れた才能を有することが多いためだ
神学的にも強い関心が持たれており、扱いに注意が必要ということもある
公的に彼らを指す言葉は存在しない
ただ、俗称として「イノセンス」とだけ呼ばれているそれに、
ロアンが属していたのは、果たして幸か不幸か
組織に属するからには、仕事がある
とはいえ、成り行きで抱き込まれたロアンには、組織に属する理由が無い
だが彼の特異性に注目する教会は、彼を手元におきたがった
そこで妥協案が提示された
聖騎士団に伝えられる最秘奥"十字結界"と、教会のサポートを条件に、
定期的に与えられる任務をこなしてもらう、ギブアンドテイク
煩わしいばかりの首都に辟易していたロアンは、
「まあ、森の近くなら」と、軽い気持ちでOKしてしまった
このことは、後々まで大きな影響をもって彼に関わることになる