Ro novelize

taleshift_5

朝霧の邂逅から暫くして
ロアンは生活の殆どを森で過ごすようになっていた

適当な場所に野営を張り、
同じような場所をいくつか見つけて森を渡り歩いた
食料は森で調達し、もともとの無欲もあって急速に俗世から離れていく
町に戻ることも稀になっていた

朝起きて、狩りに出る
大抵は一日の果物や木の実を採って終わる
何処に何があるのかを把握してからは、肉を口にする機会も減った

食料を確保した後、
軽く森を歩き回り、適当な場所で剣舞に耽る

たまに"彼"が現れることもある
特に何をするわけでもなく、気が付いたら消えている
前に同伴者を大勢連れてきて、あまりに暑苦しいものだから苦情を出した

ひとしきり舞った後、手近な川で汗を流す
そして暇な時は、森を眺める事が多くなった
そんな穏やかな時間を、好奇心旺盛な小鳥や獣が邪魔をするのだ

獣たちの言葉はまだ解らないが、
振る舞いから何を意味するのか解りかけたとき、 "彼"が居なくなった
別に2人して定住してる訳ではないが、虫の知らせというか...
ファイアブランドを握っていると、感じるものがあるのだ

ほどなくして、冷たくなった"彼"の遺骸を発見した
突き立った弓矢や、斬撃の痕... 火傷にも似た引き攣り
意味するところは、明白だった

不思議と何も感じなかった

あるべきものがそこにある、そんな感じだ
生き物は、存在するだけで何かを犠牲にしている
始まりがあるものには終わりがあり、死はいつもすぐ近くにある
自分だけが例外であるなど、どうして言える?
ロアンは黙ってその場を立ち去った

ひとつだけ言えることがある

"彼"の遺体は他の命の糧になり、
"彼"を苗床として、新たな森が生まれるだろう
全ては流れのままに... そうして世界は周っているのだ

その日からロアンの日課に、森の巡回が加わった
深い考えは無い。だが、それが自然なことのような気がした

前から日課であった散策に、少し力を入れた程度のものだが、
野営の後始末もしない輩に、ちょっとだけ"おしおき"してやったりもした

ある日、道に迷った旅人を町まで送ってやった時、
自分が「隠者」と呼ばれている事を知った
今さら人にどう呼ばれようと、何とも感じなかったけれど

そして、あいもかわらず剣と舞う
近頃は見学者も増えてきて、何も知らない人が見かけたなら驚く事だろう
熊や狐や小鳥たち、森のモンスタ−ですら、この時だけは穏やかだ

"彼"の後継者に会うこともある

見かけでは区別がつかないが、ファイアブランドは違うと告げる
彼らは初めて来るとき、一様にファイアブランドを眺めて目を細める
彼らなりに思うことがあるのだろうか... ロアンは知らない

舞の際中は、頭が真っ白になる
何かに導かれるように足を運び、剣を振る

めったにないことだが、賊を追い払う機会もある
その度に動きが洗練されているのを感じて、いつも驚く
日課の剣舞は、立派な訓練にもなっているようだった

そういえば彼のファイアブランドは、特別製らしい

草花に触れても、それらを傷つける事は無い
ロアンの意思に呼応し、精神力を消費して炎を噴き上げるが、
望まぬものを燃やしたことも、一度も無い

そして剣自体が意思を持っているかのように、ある種の感応をもたらす
"彼"を感じることはもう無いが、特に"彼"の同種とは繋がりが深いようだ
握り締めるとより深く森を感じ、普段より感覚がシャープになる

ファイアブランド自体は、珍しいものではない
貴重だが... 首都へ出向けば必ず一本は見かける程度のものだ
通常のファイアブランドは、炎の魔法の触媒となる一点を除けば、
人の手による炎の武器とあまり変わらない ...どころか、
溢れる炎を持て余す者が多いようだ

だがロアンのファイアブランドは、そういったものとは一線を画していた

意に沿わず奪われたか、合意の上で譲り受けたか
その違いではないかと勝手に考えている
真実は闇の中だ

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