Ro novelize

taleshift_3

あの日、仲間と別れてから
気付けば森に来ていた

どこをどう歩いたのか、覚えていない
訳のわからない衝動に突き動かされるまま、気が付けば森に倒れていた
崇高な目標も、確かな目的もない.. ただ、それだけだ

何も考えずに飛び出したから、水も食糧も無い
身に付けていた防具と、握り締めていたファイア・カタナだけが所持品

よくもまあ、生きていたものだと思う
たぶん偶然なんだろう... 森に向かっていたから、
たまたま森が近かったから、こうしてまだ生きている
もしモロク方面に進んでいたら、確実に死んでいただろう
心身ともに疲れきった状態で、装備も無しに
砂漠を横断できるとは思えない

その時、何を考え... どうして再び歩き始めたのかも覚えていない
道なりに進み、道とも言えぬ場所を掻き分けた、その感触は残っている
朝露を含んだ気もするし、果物を口に入れた記憶もある

全ては朧気だが、1つだけ言えることがある
旅とも言えぬ旅の果て... ようやく辿り着いたフェイヨンで、
驚く守衛に向けた笑顔は、きっと酷いものだったろう

...

その後、紆余曲折を経て、
たまに森に出て、町に戻り、収穫を売って生計を立てる
そんなレンジャー紛いのことをして、生きるようになっていた
そうした生活は楽しくも、嬉しくも無かったが
少なくとも苦痛ではなかった

そして運が良かったのか、悪かったのか...
特に苦労を感じる事もなく、生きていくことだけはできた
これまでの冒険でサバイバル技術が磨かれていたのかもしれないし、
何か、別の要因かもしれない

生活の大半を森で過ごすようになって、まず気が付いたことがある
これまでの自分が如何に危なっかしく、他人に頼っていたかということだ

生きることに無気力になっていたとは言え、死にたいわけではなかった
無謀な特攻をする気力こそなかったが、これまでの悪癖というか
ちょっとしたミスで傷を負うことが多かった

そうした傷の一つ一つは、実は大したことは無かった
駆け出しのアコライトでも完治させうる、些細な傷
だが傷を負うたび脳裏に浮かぶ少女の顔が、酷く苦痛だった

少女の顔を、ただ振り払うためだけに必死になった

話相手も存在しない、孤独な作業
それは内省を促し、注意を喚起し、振る舞いに慎重さをもたらした
結果的に素晴らしい勢いで、森での生活に溶け込むことになる
自分が寡黙になったと気付いたのは、暫くしてからだ

なんということはない
いつものように商人に獲物を渡し、日銭を得るまでの些細な会話
話の流れでたまたま指摘された... ただそれだけのこと

虚無にただ生きるだけの人間が、多弁である筈も無い
いつも一人で、話相手もおらず... そもそも狩りでは息を潜めるもの
言葉少なになるのは自然なことで、指摘されるまで気付きもしなかった
ファイア・カタナが邪魔になってきたのも、その頃だろう

人の手による炎の武器は、容易に自然を汚す
山火事こそ起こさなかったが、小火の類はしょっちゅうあった
その度に消し止めるのも面倒であれば、両手が塞がるのも邪魔の極み
そもそも森の化け物には効果が薄い
時たま出没する人魂など、石を投げたほうがマシというもの

そんなことを考えていたからだろうか
ある日、勢い余って地肌にぶつけた際に、あっけなく折れてしまった
思えばその時... 過去への未練も、消えたのだ

"彼"に会ったのは、そんな時のこと

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